迷子

黒いコンクリートの上 ひとり
澄んだ空の下で 佇む

 澄ました顔した黒い猫が
 「何から逃げているんだい」って
 薄く笑いながら問いかけてくる

 なんだっけ。 だれだっけ。

 片方だけのイヤリング
 小さな紙切れ 走り書きのメモ
 『18歳の私へ』拙い文字と、褪せた封筒

 「愛されたくない、って言ってるわけ?」

 積もり、積もった、思いだせもしない過去
 「いつか」なんてまた、引き出しに詰めて
 ポケットの中で握りしめたてのひら
 ほんとうは、何も掴んでいやしない

 水たまりのまばらな 公園
 錆びた低い遊具 仰ぎ見て

 「そう思ってる奴は、そんな顔しないぜ」
 また薄笑いで語りかけてくる

 なんでだっけ。 どこだっけ。

 いつか貰った賞状だって
 殴り描いた画用紙といっしょに
 段ボールに押し込んだ

 「だってさ、愛されるのも、寂しさも、
 相手がいなきゃ、知らないんだぜ」

 これからもずっと 続くであろう
 不確かな未来 霞んだ過去
 『僕へ』と書かれた手紙 捨てて
 鞄の中、押し込んだレッテル
 どうしようもないなって蹴った地面

 「そろそろ気づいたらどうなの」
 揺らいでいく黒い猫の姿

 「ねぇ」と呼ばれて振り向いた
 視線の先に立つ いつかの私
 今より長い髪の毛ふわり
笑みを浮かべ 開いた口から紡がれる

「あなた いま 幸せですか」
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